【会社の価格算定】DCF法の問題点
会社の価格算定において、DCF法は広く用いられている価格算定手法の一つです。
しかし、DCF法にはいくつかの問題点が存在します。
この記事では、DCF法の問題点について詳しく解説し、改善策や代替手法を提案します。
DCF法の基本的な概念
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計することで企業価値を評価する方法です。以下に、DCF法における重要な概念を説明します。
- 現在価値:将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くことで、現在の価値を求めます。
- ディスカウントレート:割引率とも呼ばれる、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く際に使用する割合です。
- キャッシュフロー:企業の利益を示す指標で、将来における現金収支の流れです。
DCF法のメリット
DCF法には、以下のようなメリットがあります。
- 目標の明確化:企業価値向上のための具体的な目標を設定することができます。
- 長期的視点:将来のキャッシュフローを評価することで、長期的な視点での企業価値を把握することができます。
DCF法の問題点
しかし、DCF法には以下のような問題点が存在します。
将来キャッシュフローの予測の困難さ
企業の将来キャッシュフローを正確に予測することは困難であり、予測誤差が企業価値評価に大きな影響を与える可能性があります。
将来の収益や支出、投資計画などの予測は、市場状況や競合他社の動向、技術革新などの影響を受けるため、不確実性が高くなります。
また、過度に楽観的な予測を行うことがあり、その場合も企業価値評価の精度が低下するリスクがあります。
ディスカウントレートの選択の主観性
ディスカウントレートは、企業のリスクや将来成長率を反映させるために設定されますが、その選択には主観性が介入し、異なる評価者が異なるディスカウントレートを選ぶ可能性があります。
ディスカウントレートは、キャッシュフローのリスクや時価資本コストを考慮して決定されますが、これらの要素をどの程度重視するかは、評価者の経験やスキル、業界知識によって異なる場合があります。
経済状況の変化への対応力不足
DCF法は、一定の経済状況を前提としていますが、実際には経済状況が変動することが多く、その変化に対応できないと、企業価値評価が大きくずれる可能性があります。
例えば、金利が急激に上昇した場合、ディスカウントレートも上昇し、企業価値が低下することがあります。
また、為替変動や政策変更、自然災害などの外的要因も、企業のキャッシュフローに影響を与えるため、これらの要素を考慮しない評価は不十分となる場合があります。
割引率の変化による評価額の大幅な変動
ディスカウントレートがわずかに変わるだけで、企業価値評価が大幅に変動することがあります。
これは、DCF法が割引率に敏感であるためです。
ディスカウントレートが高くなると、将来のキャッシュフローの現在価値が低くなり、企業価値評価が下がります。
逆に、ディスカウントレートが低くなると、現在価値が高くなり、企業価値評価が上がります。
このように、割引率の僅かな変動が評価額に大きな影響を与えるため、ディスカウントレートの選択が非常に重要であると同時に、その選択に伴うリスクも高まります。
成長期と安定期の見極めの難しさ
企業の成長期と安定期を正確に見極めることは難しく、その見極めがずれると、企業価値評価に大きな影響を与えることがあります。
成長期には、企業の収益が急激に増加することが期待されますが、その期間を過大評価すると、将来のキャッシュフローが過剰に見積もられ、企業価値が過大評価されるリスクがあります。
一方、安定期に入ったと判断し、成長期の短さを過小評価すると、企業価値が過小評価される恐れがあります。
正確な成長期と安定期の見極めは、業界動向や競合企業の状況、企業の内部要因(経営陣の戦略や経営資源、技術革新の可能性など)を総合的に分析することが必要です。
しかし、これらの要素も不確実性が高く、予測が難しいため、成長期と安定期の見極めには限定性があることを理解しておく必要があります。
DCF法の改善策
DCF法の問題点に対処するために、以下の改善策が考えられます。
シナリオ分析
将来の経済状況や市場環境の変化を考慮した複数のシナリオを用意し、それぞれのシナリオで企業価値を評価することで、リスクを軽減できます。
シナリオ分析では、極めて楽観的なケース、悲観的なケース、中立的なケースなど、さまざまな状況を想定してキャッシュフローの予測を行い、それぞれのシナリオにおける企業価値を計算します。
これにより、経済状況の変化による影響を評価し、より現実的な企業価値の範囲を把握することができます。
センシティビティ分析
ディスカウントレートやキャッシュフローの予測値が変化した場合の影響を検証し、その範囲内で企業価値がどの程度変動するかを分析することで、評価の信頼性を向上させることができます。
センシティビティ分析では、主要なパラメータ(ディスカウントレート、キャッシュフローなど)を変化させた場合の企業価値の変動を調査し、評価結果の感度を評価します。
これにより、不確実性を考慮した企業価値評価が可能となり、より堅牢な評価結果を得ることができます。
代替手法の紹介
DCF法の問題点を補完するための代表的な代替手法として、類似企業比較法(EV/EBITDA倍率)が存在します。
類似企業比較法(EV/EBITDA倍率)
類似企業比較法は、業界内の競合企業の財務データを用いて、企業価値を評価する方法です。
特に、EVとEBITDAの倍率を用いた評価が一般的です。
この方法では、業界内での競合企業のEV/EBITDA倍率の平均を算出し、その倍率を対象企業のEBITDAに適用することで、企業価値を算定します。
類似企業比較法は、業界内の競合企業と同様のビジネスモデルや市場環境に対する評価を行うため、比較的客観的な評価が可能です。
類似企業比較法の利点
- 市場情報を利用するため、客観性が高い。
- 業界内での競争力やポジショニングを考慮した評価が可能。
- 業界動向や市場環境の変化に対応しやすい。
類似企業比較法の欠点
- 類似企業の選定が難しい場合がある。
- 業界内の競合企業の状況に依存するため、独自性がある企業の評価が困難。
- 短期的な市場の変動に影響を受けやすい。
総合的な企業価値評価のアプローチ
DCF法と類似企業比較法は、それぞれ異なる観点から企業価値を評価するため、両方の方法を組み合わせることで、より総合的な企業価値評価が可能となります。
具体的には、DCF法で算定した企業価値と類似企業比較法で算定した企業価値を比較・検証し、両者の結果に基づいて合理的な企業価値を導き出すことができます。
また、シナリオ分析やセンシティビティ分析を併用することで、不確実性を考慮した評価が可能となり、信頼性の高い企業価値評価が実現できます。
まとめ
DCF法は、企業の将来キャッシュフローの現在価値に基づいて企業価値を評価する方法であり、多くの投資家や経営者に利用されています。
しかし、予測の困難さやディスカウントレートの主観性など、いくつかの問題点が存在します。
これらの問題点に対処するために、シナリオ分析やセンシティビティ分析を用いてリスクを軽減し、評価の信頼性を向上させることができます。
また、類似企業比較法などの代替手法を併用することで、より総合的な企業価値評価が可能となります。
企業価値評価は、会社売却において最も重要な要素の一つであるとともに、会社買収後の買い手の経営に直結する問題でもあります。
したがって、DCF法をはじめとする評価手法を適切に理解し、その利点と問題点を把握して活用することが求められます。
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