会社売却後の雇用契約
会社を売却しても、従業員の地位の変動は一切ありません。
会社の従業員は、会社との間で雇用契約を締結しています。
会社の代表者・オーナーと従業員との間に雇用契約があるわけではなく、あくまで会社との間の雇用契約です。
他方、会社売却とは、会社の実質的な所有者であるオーナー(株主)が、第三者に株を売却するというものです。
会社売却により会社の代表者やオーナーは変更となりますが、従業員は会社との間で雇用契約をしているものであり、その雇用契約の内容には一切の影響はありません。
会社売却の意味についての解説はこちら
会社売却による従業員のメリット
大企業のグループ会社の従業員となる可能性
会社買収を行う側の会社は、会社売却をする側の会社よりも相当規模が大きいことが一般的です。
会社買収側の会社が大企業である場合、売却した会社側の従業員は、大企業のグループ会社の従業員になります。
従業員によっては、大企業のグループの一員となることに喜びを抱く人もいるでしょうし、社会的な評価・世間一般の評価も更に向上するものと考えられます。
もちろん、そういったことに関心の無い従業員の方もいらっしゃるかとは思いますが、かえって居心地が悪いということにまではなりづらいものと考えられます。
コンプライアンス体制・福利厚生の充実
上記とも関連しますが、買収する側の会社が大企業であり上場企業であるような場合、近年、社内のコンプライアンスが極めて重要視されています。上場企業であれば、買収以前から既に整備されているわけですが、買収によって売却会社もグループ会社の一員となる以上、売却会社にも同様のコンプライアンス体制が行き渡ることとなります。
就労に関するコンプライアンス体制としては、パワハラ防止・セクハラ防止はもちろんのこと、マタニティハラスメントの防止、過剰な残業の禁止、内部通報制度の確立等が挙げられます。
また、福利厚生についてもグループ会社全体で同一の制度が適用されることも多いため、従業員の福利厚生が充実する可能性があります。
取引規模の拡大による更なる活躍
買主会社のグループ会社化により、売却会社の取引規模は拡大し、従業員はこれまでに行ってきた職務以上に広い範囲や分野において活躍する機会が与えられる可能性が高くなります。
それまでに関わってこなかった分野・人・会社等に触れることによって、就労意欲の更なる向上に繋がることが有り得る上、従業員のキャリアアップにも繋がるものと考えられます。
会社売却による従業員のリスク
買主側の意図
会社は、人(従業員)によって成り立っているものであり、買主側もそれを理解しています。
会社の利益を上げることのできる人材を確保するためには相応のコストと時間を要し、また、売却会社の熟練した従業員は既に業務のために技術と経験を積んでいる状態にあると言えます。
このような人材を買主側があえて手放すようなことは通常は考えられず、会社買収前と同程度以上の待遇を与え、継続して就労してもらえるように最善を尽くすものと考えられます。
したがって、会社を売却することによって従業員に生じるであろう不利益は、それ程高いものとは考えられません。
買主の経営方針による就労環境の変化
上記のとおり、従業員に生じる不利益が高いものとは考えられないものの、買主の経営方針によっては、従業員に重大な不利益が生じる場合があります。
別の解説記事において記載しましたが、Twitter社を買収したイーロン・マスクによる在宅ワークの実質的な禁止等が挙げられます。
テスラ社のイーロン・マスクはTwitter社を買収した後、Twitter社の従業員に対しリモートワーク(在宅ワーク)を実質的に許さない指示を出しました。
在宅ワークの禁止自体の是非は別として、買収直前までの従業員の日々の生活や就労環境を、大きく変動させてしまう恐れが現に存在するということの一例です。
このような事態を防ぐためには、買主候補との交渉をする中で、買主は会社買収後にどのような方向性を考えているのか、従業員の取り扱いについてどのように予定しているのか、数年先のみならず将来にわたりいかなる会社の未来像を描いているのかなどを確認していくことが重要です。
場合によっては、従業員の取り扱いについて書面で明記して買主と合意しておくという方法もありますし、売却前に雇用契約や就業規則を再整備しておくという方法もあります。
まとめ
会社を売却しても、雇用契約には何ら影響がないため、従業員の地位には一切変動はありません。
会社を売却することによって従業員に生じるメリットとしては、これまで述べたとおり、以下の要素が考えられます。
①大企業のグループ会社の従業員となる可能性
②コンプライアンス体制・福利厚生の充実
③取引規模の拡大による更なる活躍
また、買主の経営方針によっては、従業員に事実上の不利益が生じる可能性はありますが、これを未然に防ぐための手立てもあります。
買主の志向する会社の方向性をあらかじめよく確認すること、従業員の取り扱いについて書面により確認をすること、雇用契約や就業規則を整備しておくこと等です。
総じて考えれば、従業員に生じるメリットが大きいものと考えられ、会社売却を悲観的に捉え消極的となる必要は無いものと言えます。
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