会社売却の相場・税金・従業員の取り扱い
この記事に書かれていること
会社売却とは?
会社売却の意味
会社売却とは、株式会社の場合、会社の株式を第三者に譲渡することを言います。
会社売却を行うのは「株主」であり、「社長」や「代表取締役」ではありません。非上場会社の場合「株主」と「代表取締役」が同一であることが多いため、代表取締役が会社を売却するという感覚がありますが、実際には「株主」が会社売却を行うのであり、代表取締役の地位は関係がありません。
10数年前に「モノ言う株主」が話題となり世間的にも広く認知されるようになりましたが、株式会社の所有者は株主であるということです。
会社の所有者である株主は、買主との間で株式譲渡契約書を取り交わすことによって、会社を売却します。
会社売却とM&A・会社買収・事業譲渡・事業承継の相違点
会社売却とは、上述したとおり、会社の株式を第三者に譲渡することを言います。
また、会社売却以外にも会社売却と似た言葉が色々と存在します。
M&A・会社買収・事業譲渡・事業承継・会社分割・合併などなど、会社売却を検討していると様々な言葉が目に入ってくると思います。
他の用語を理解することにより、会社売却の理解がより深まりますので、特によく使われる言葉であるM&A・会社買収・事業譲渡・事業承継について、以下簡単に説明していきます。
M&Aとは
M&Aとは、Merger And Acquisitionの略称です。Mergerは合併、Acquisitionは買収の意味であり、M&Aは、直訳すれば「合併及び買収」という意味になります。
M&Aには、様々な手法が存在します。主な手法としては、株式譲渡、事業譲渡、合併、株式交換などがあります。
会社売却は、株式譲渡に該当し、M&Aの中の一つの方法にあたります。
M&Aという言葉は、会社売却のみならず、会社を拡大するための会社同士の様々な統合再編方法を広く指す概念であり、そのうちの一つの方法が株式譲渡による会社売却ということです。
また、M&Aと一言に表現しても大小様々な規模の取引が含まれており、売上高1兆円を超える会社同士の合併もM&Aですし、1000万円で会社を売却することもM&Aです。
そのため、「M&A」とだけ表現したところで、その会社が何をしようとしているのかは分かりようがありません。M&Aのうち、株式譲渡をするのか、合併をするのか、事業譲渡をするのかといったことが重要となります。
会社買収とは
会社買収とは、会社が他の会社の株式を取得して他の会社の経営権を取得することを言います。
会社の売主から見た表現を会社売却、会社の買主から見た表現を会社買収と言います。これは同じ取引行為を各立場から表現しているにすぎません。
なお、会社売却や会社買収と似た言葉に「合併」があります。
合併と、会社売却・会社買収が決定的に異なる点は、会社が消滅するか否かです。
合併とは、少なくとも一方の会社が完全に消滅する取引です。買収する側の会社名だけが残るか、もしくは新たな会社名を付けることになります。合併の場合、吸収されて旧会社が消えてなくなると考えると分かりやすいと思います。
他方で会社売却・会社買収は、株主が変わるのみであり、会社自体には何も変更がなく存続する取引です。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、会社の事業のうちの特定の事業のみを第三者に譲渡することです。
事業譲渡は、会社売却と類似の取引方法として挙げられることが多くあります。
事業譲渡と会社売却とは、会社の事業を売却するという点で共通していますが、会社売却では会社そのもの(株式)を売却するのに対し、事業譲渡は会社の事業のうちの特定の事業のみを売却する(株式は売却しない)という点で異なります。
事業譲渡と会社売却は類似の方法として挙げられますが、実際にはその手段は大きく異なっています。
会社売却については株式の譲渡をするのみで会社売却が実行されるのに対し、事業譲渡は譲り渡す対象の事業に含まれる資産をすべて個々に売却する必要があります。
また、会社売却については従業員の同意は一切不要であるのに対し、事業譲渡は(当該事業に携わる従業員を併せて譲り渡す場合)各従業員の個別の同意が必要となります。
会社を承継しようと考える場合、会社売却(株式譲渡)を用いられるのが通常であり、事業譲渡が用いられることはほとんどありません。
あえて事業譲渡を用いる場合としては、会社の事業を売却したいが、会社自体は保有し続けて別の事業を行いたいという場合が考えられますが、その場合には会社分割という手続きを用いるほうが適切であると言えます。
事業承継とは
事業承継とは、会社の経営権を後継者に引き継ぐことを言います。
近年、中小企業の経営者の高齢化がすすむなかで、事業承継は重要な課題になっています。
中小企業庁(経済産業省の外局)の発表によれば、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人(日本企業全体の約2/3)、うち約半数の127万人(日本企業全体の1/3)が後継者未定であるという状況です。
参考:中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」
また、帝国データバンクの全国企業調査結果によれば、2011年以降、後継者不在の会社は65%を上回っていたところ、非同族承継(親族以外による承継)が増加し、2022年の後継者不在率は初の60%割れとなっています。
これは、会社売却(M&A)の方法が普及しつつあることも要因として挙げられます。
ただし、その一方で帝国データバンクの同調査結果によれば、同社の集計している「後継者難倒産」が2022年1月~10月で408件発生しており、10か月累計で400件超は過去初めてであり通年でも過去最高を更新する見込みである、と報告されています。
参考:帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」
近年、積極的に会社売却を検討される経営者が増加しています。
経済産業省等の官公庁やM&A仲介会社等の民間企業によって、会社売却という方法が周知あるいは宣伝され、経営者に会社売却という選択肢を提案しているということも会社売却件数の増加に繋がっているものと考えられます。
会社売却の6つのメリット
リタイア後の資産形成
会社を売却することにより、経営者がリタイアした後の生活資金や、新たな起業資金を確保することが可能となります。
例えば、営業利益が1億円を上回る会社であれば、10億円で売却できるケースもあります。
売却の際の税金は約20%ですので、約8億円が手元に残ることになります。
従業員の雇用の維持
会社を解散・清算した場合、従業員は職を失うことになります。
それに対し、会社売却をすることにより、すべての従業員の雇用が維持されることとなります。
後述しますが、会社売却をした場合、従業員の地位には一切影響がありません。
連帯保証が外れる
金融機関から融資を受けている会社の場合、会社経営者に連帯保証(個人保証)がついていることが多くあります。
この連帯保証(個人保証)のことを「経営者保証」と言います。
中小企業庁によれば、経営者の80%に経営者保証がついているとのデータがあります。
参考:中小企業庁「経営者保証」
会社売却をすることにより、この経営者保証・連帯保証が外れ、保証の責任から一切解放されることになります。
重圧からの解放
経営者には、日々、過度の負荷がかかり続けていることは間違いありません。
いかに気丈に振る舞い、強い意志で経営をされていたとしても、疲労が蓄積されていくものです。
信頼の置ける買主を見つけ、会社の経営を委ねることにより、プレッシャーとストレスから解放された第二の人生を歩むことが可能になります。
会社の未来への存続
会社を解散・清算した場合、会社の歴史はそこで途絶えることになります。
会社売却によって優れた経営手腕を持つ人物に会社を託すことにより、会社が未来にわたって存続していくこととなります。
合併の場合には会社は無くなってしまいますが、会社売却の場合には会社がそのまま残り続けることになるのです。
買主会社とのシナジーによる更なる成長
会社売却を行う場合、買主は売主会社より規模が相当大きいケースが通常です。
また、会社買収を行う買主は、会社の事業計画や会社の将来性を予測することに長けており、売主の会社は更なる成長を遂げていくこととなります。
また、複数の会社がグループ会社となることによって、シナジー(相乗効果)が発生することも多くあります。
互いの強み弱みを補完し合うことによって、これまでの会社価値を飛躍的に向上させます。
会社売却の3つのデメリット
同種事業の経営禁止
会社売却をする際、売主は買主に対し、売却した事業と同種の事業を行わないことを確約することが一般的です。
これは、買主からすれば、会社を買収しても新たに同種事業を設立されてしまっては、買収した会社の価値が低減してしまうためです。
そのため、引き続き同種の事業に携わり続けたい場合には、会社売却をすることは難しいです。
売却後の一定期間の拘束
買主との条件交渉によっては、会社を売却した後も一定期間会社経営の継続を要望される可能性があります。これをロックアップ条項と言います。
これは、会社経営のスムーズな継承や、主要取引先との関係性の再構築、従業員の就労意欲維持等の目的によるものです。
そのため、会社売却をすることによって会社経営から解放されたいという思いをお持ちの方からすれば、意に反して売却後も一定期間拘束されてしまうこととなります。
一方で、会社売却後も関わっている間は役員報酬は支払われますし、従業員のことを考えれば引継ぎ期間があることが望ましいとも考えられます。
いずれにせよ売却後の一定期間の拘束は、買主との話し合いの中で決定するものであり、強制的なものではありません。
リタイア後の喪失感
会社売却後、経営の重圧やストレスから解放されるのと同時に、ある種の喪失感に苛まれる可能性があります。会社経営者は自社の経営に人生を捧げてこられた方ばかりですので、生き甲斐を失った感覚に陥ってしまうかもしれません。
もちろん、このような喪失感は会社経営者の方に限られた話ではなく、会社員が定年を迎える場合でも生じる問題であると言えます。
しかし、重圧から解放されることの反動としての虚無感は、会社経営者の方のほうがより大きいものであるかもしれません。
会社売却の相場・価格計算の方法
会社売却の相場
会社売却の相場は、純資産(時価)+営業利益3年~5年分です。
例えば、純資産(時価)2億円、毎年の営業利益が1億円の場合、2億円+(1億円×3年~5年)=5億円~7億円となります。
また、役員報酬が不相当に高い(労務対価性が低く利益配当要素が強い)場合は、役員報酬の一部を営業利益に算入することができます。
例えば、役員報酬が年間4000万円であり、相当な役員報酬が年間2000万円である場合、差額の2000万円を営業利益に算入できます。
[純資産(時価)2億円、毎年の営業利益が1億円の場合]
役員報酬加算前
2億円+(1億円×3年~5年)=5億円~7億円
役員報酬加算後
2億円+(1億2000円×3年~5年)=5億6000万円~8億円
ここまでに記載した計算方法は、年買法(年倍法)と言われています。
売却価格の正しい算定方法
会社売却とは、会社の株式を第三者に譲渡することです。会社の所有者は会社株式の所有者であり、株式を譲渡することによって会社の経営権を譲渡します。
そのため、「会社売却の価格」は「株式の価格」ということであり、「会社売却の価格の算定」は「株式の価格の算定」ということになります。
そして、株式の価格は、上場している会社の場合、株式市場によって価格が明らかになっていますので、その価格を参考にすれば良いことになります。
それに対して、非上場の会社の場合、株式の価格は誰にも分からない状態です。株式市場で取り引きされれば、市場原理によって株式の価値を計測できるのですが、非上場であるためにその方法が無いのです。
(なお、この思考から、上場している会社から類似の会社を探してきてその上場会社の株価指標を参照すればいいのではないか、という手法も現れます。)
そのため、非上場の会社の株式の価格を算定するために様々な手法が提唱されていますが、会社売却(M&A)の歴史はまだまだ浅く、会社の価値を正しく算定する方法は現在も現れていません。
もしかすると、人工知能(AI)の発達により、将来的には正しい算定方法が確立される可能性がありますが、現時点では人口知能(AI)は株価の変動も十分に予測できない状態であり、非上場株の価値の算定となるとまだ時間を要するものと思われます。
非上場の会社の価値の算定については、現在までに提唱され実用化されている手法として、大別すると以下のアプローチによる手法があります。
コストアプローチによる手法
インカムアプローチによる手法
マーケットアプローチによる手法
以下、各アプローチを説明していきます。
コストアプローチ
コストアプローチとは、会社の保有している資産と負債を基準にして会社の価値を算定する手法です。感覚的に最も分かりやすい手法であると言えます。
コストアプローチの手法に分類される代表的な算定式として、⑴簿価純資産法、⑵時価純資産法、⑶年買法(年倍法)があります。
簿価純資産法
簿価純資産法とは、帳簿に計上されている資産合計から負債合計を差し引き、算出された純資産額を会社価値とする算定方法です。
会社を単なる器として捉え、売却時点の簿価の価値が会社の価値であると考える方法です。
簿価純資産法のメリットは、財務諸表さえあれば誰でも容易かつ一義的に算定ができることです。
簿価純資産法のデメリットは、帳簿価格に基づき会社価値を算定するため、既存の資産及び負債の帳簿価格と時価に差額(含み益・含み損)が生じている場合、計算結果が実態と乖離することが多々あります。
時価純資産法
上記の簿価純資産法のデメリットを解消する方法が時価純資産法です。
時価純資産法とは、売却対象会社の資産・負債の帳簿価格を時価に置き換えて会社価値を算出する方法です。
具体例を確認したほうがより分かりやすいです。
回収困難な売掛金が資産に計上されている場合、資産から除外
土地の価値が上昇している場合、取引相場の時価に引き直し
退職給与引当金を再計算し、負債を調整
時価純資産法のメリットは、簿価純資産法に比べれば、会社価値の実態に少し近付いていることが挙げられます。
時価純資産法のデメリットは、この算定方法によっても会社の価値の大部分は何ら評価されていません。
その大部分とは、会社が毎年産み出していく利益です。
会社とは、複数の人及び物が結合することによって新たな利益が生み出される集合体であるところ、簿価純資産法・時価純資産法はいずれも、会社自体の資産や負債を計算するのみで、会社が毎年産出する利益や、会社の保有する人材・技術・安定取引先・ブランド力については何も評価がされていないのです。
年買法(年倍法)
時価純資産法の不都合を解消するための算定方法が、年買法(年倍法)です。
年買法(年倍法)とは、上記の時価純資産法をベースにしつつ、会社が産み出し続けるであろう将来の利益を加算するものです。
今後も〇年の間は確実に利益を上げるだろう、という予測の下に、会社自体の純資産のほかに、営業利益の〇年分を支払うというものです。
年買法(年倍法)によって取引をした場合、買主は、会社買収後、同様の利益を上げ続けることによって買収代金を回収する一方、予測していた営業利益が減少した場合には損失を被ることとなります。
この営業利益の〇年分の一般的な相場としては、3年~5年程度となります。
そのため、会社売却の一つの相場としては、純資産(時価)+営業利益3年~5年分ということになります。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、会社の過去の収益ではなく、将来の利益予想やキャッシュ・フロー予想に基づいて価値を算定する手法です。
対象の会社が今後どの程度の利益を上げるのか(キャッシュを生み出すのか)という点のみに着目して算定する方法です。
インカムアプローチに分類される具体的な手法としては、配当還元法、収益還元法、DCF法などがあります。
この中でも、DCF法は、会社売却に際して用いられる代表的な手法です。
DCF法
DCF法(Discounted Cash Flow・ディスカウントキャッシュフロー)とは、会社が将来生み出す価値をフリーキャッシュフローで推計し、資本コスト(WACC)で割り引いて現在価値(DCF)に換算して会社を評価する手法です。
平たく説明すると、将来の事業計画を作成し、フリーキャッシュフローを予測します。例えば5年程度の事業計画を策定し、毎年会社が得られる現金を計算します。
そうすると、将来5年間で得られる現金を合計したものが現在の会社の価値である、という考え方が有り得ることになります。
ところが、事業計画はあくまで予測でしかなく、実際に計画どおりに収益が上げられるかは分かりません。
そのため、事業計画によって予測された金額で購入することは、買主にとってリスクとなり、また、買主にとってのメリット(リターン)がありません。
そこで、事業計画を予測しつつ、事業計画の不確実性の点を修正するために、割引率というものが使用されます。
事業計画によって計算した将来の現金収入を、実現可能性の不確実さの観点から割り引いて評価(キャッシュフローのディスカウント)をして価値を算出します。
なお、ここで言う割引率とは、何の根拠もなく感覚的に決定するというものではなく、CAPM(Capital Asset Pricing Model)という理論を元に算定します。
事業計画による将来の現金収入から、リスクを考慮して割り引いた価値、これが会社の現在の価値ということになります。
しかし、ここまで記載してきた事業計画の例では、将来5年分の現金収入しか評価されていません。
現実には会社は未来にわたって利益を産み出し続けるものであり、6年後以降の利益も計算して現在の価値に組み込まれる必要があります。
そこで、事業計画より後の会社の利益については、事業計画の最終年度(ここでは5年目)のフリーキャッシュフローを基準とし、一定の成長率(永久成長率)を仮定して6年目以降の利益を自動的に計算します。
6年目以降の利益については毎年の事業計画を策定するのではなく、策定した事業計画の最終年度である5年目を基準とするということです。
これによって算定した事業計画より後の利益をターミナルバリュー(継続利益)と言います。
上記で計算済みである将来5年分の現金収入に、ターミナルバリューを加算したものが、会社の現在の価値ということになります。
以上がDCF法に基づく企業価値の算定です。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、売却対象会社と同業他社の時価総額を比較することや、類似の買収事例などを参考にして会社の価値を算定する手法です。
マーケットアプローチに分類される具体的な手法としては、市場株価法、マルチプル法(類似会社比較法)などがあります。
市場株価法
市場株価法とは、売却対象会社が株式を上場している場合に採用される方法です。
株式市場における株価は、不特定多数の投資家が当該会社の収益性や将来性を総合的に判断して形成された価値であり、信頼性の高い数値と言うことができます。
また、会社売却は株式の譲渡であるという観点から考えると、株価を参照して売買価格を決定するというのは価格の算定方法としては最も正しいものであると考えられます。
しかしながら、これはあくまで売却対象会社が上場している場合の算定方法であり、非上場会社の価値の算定には使用することができない方法です。
マルチプル法(類似会社比較法)
マルチプル法(類似会社比較法)とは、売却対象会社に類似する上場会社を選定し、類似上場会社の株価指標を用いて計算する方法です。
会社売却とは株式の譲渡のことであり、会社売却の価値を算定するということは株式の価格を算定するということです。そして、株式の価格は上場企業であれば株式市場における株価を参照することができます。
これに対し、非上場会社の場合には、株式市場における株価が存在しません。
そこで、売却対象会社と類似する上場会社を探して、その上場会社の株価指標を参考にするというのがこの算定方式です。
具体的な算定式としては、EV/EBITDA倍率が最も使用されています。
EV/EBITDA倍率
EV/EBITDA倍率による算定は、非常に簡単で分かりやすい算定方法であり、会社売却(M&A)において会社の価値を把握するために広く用いられている方法です。
EV/EBITDAのうち、EV(Enterprise Value)とは、株式時価総額+純有利子負債(有利子負債-現預金)のことを言います。
EBITDAとは、営業利益(正確には支払利息控除前税引前利益)+減価償却費のことを言います。
EBITDAのうち、EBITとはEarnings Before Interest and Taxesの略であり、DAとはDepreciation and Amortizationの略です。
EV(株式時価総額+純有利子負債)をEBITDA(営業利益+減価償却費)で割ったことにより得られる数字が、EV/EBITDA倍率となります。
例えば、ある上場会社のEVが10億円、EBITDAが1億円である場合、その会社のEV/EBITDA倍率は10倍であることが分かります。
この倍率によって何が分かるかというと、会社を買収した際の価格を何年で回収できるかという目安になる、また、EBITDAから会社の価値を推測することができる、ということです。
この倍率を用いて、以下のように会社の価値(事業価値)を計算します。
⑴ 売却対象会社と類似する上場会社を複数社選定する
⑵ 選定した上場会社のそれぞれのEV/EBITDA倍率を計算する
⑶ 売却対象会社の[営業利益+減価償却費](EBITDA)に、⑵で計算した上場会社のEV/EBITDA倍率の平均値を掛け合わせる
⑷ ⑶の計算により得られた数値を会社の価値(事業価値)と把握する
まとめ
会社を売却する際には、上記に説明した年買法(年倍法)・DCF法・マルチプル法(EV/EBITDA倍率)等の計算式を用いて会社の価格を算定していきます。
このような計算式を用いた会社売却の相場をあらかじめ把握することは大事なことです。
しかし、会社価値の算定において最も重要な指標であり重要な事実は、自社の強みと弱みです。これは売主である会社経営者の方こそが誰よりも理解しているはずの部分であり、それらを言語化して整理していくことが必要です。
売主の依頼したFA(ファイナンシャルアドバイザー)や弁護士はその手助けをします。
もう少し噛み砕いて説明しますと、会社とは、複数の人及び物が結合することによって新たな利益が生み出される集合体であるところ、利益が発生していることには必ず理由が存在します。
なぜ自社の収益が上がっているのか、その要因は人なのか、モノなのか、効果的な宣伝なのか、安定取引先なのか、他社にない特殊サービスなのか、老舗(ブランド力・既得権)なのか、単に現時点で競合する会社が存在しないのか、その場合に先行者利益(模倣の難易性)はどの程度であるのか
これらの点を改めて分析していくことにより、会社の適正な価値を把握することができます。
会社売却の際の税金
会社を売却した場合、譲渡益課税が発生します。
譲渡益課税は、売却する会社の株式を保有しているのが個人か法人かによって計算が異なります。
中小企業の会社売却の事例の場合、個人が会社株式を保有しているケースが多いですが、親会社が子会社を売却するような場合には法人が保有している株式の売却ということになります。
個人の場合
売却する会社の株式を個人が保有している場合、会社売却した際の税金の計算式は、以下のとおりです。
譲渡益=売却価格-必要経費(取得価格及び譲渡費用)
譲渡益×20.315%(内訳:所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%)
普通、所得税と言えば累進課税で、1800万円を超えると住民税と合わせて50%を持っていかれるといったものですが、株式の譲渡益については全く別枠の制度が設けられています。
株式の譲渡益については、金額の多寡にかかわらず所得税は一律15%・住民税は一律5%となっています。
また、2011年から2037年までは、2011年の東日本大震災の復興財源として定められた特例税制(復興特別所得税)により0.315%(所得税率15%の2.1%)が加算されます。
したがって、株式の譲渡益の税率は、以下のとおりになります。
所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%合計20.315%
なお、株式の譲渡益とは、売却価格そのものではありません。
売却価格から、株式を取得した際の費用(出資金など)や、株式を売却する際の費用(M&A仲介会社手数料など)を差し引くことができます。
売却価格からそれらの費用を差し引いた後の金額が株式の譲渡益となり、この譲渡益に20.315%が課税されます。
また、個人の保有する株式の売却には、分離課税制度が定められています。
これは、他の所得・損失がある場合であっても株式の譲渡益とは完全に分離し、株式の譲渡益のみで税金を算定するというものです。
そのため、株式の譲渡益以外にいかなる高額の所得や損失があったとしても、株式の譲渡益には影響しないことになります。
国税庁[株式等譲渡益課税制度]
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/04_5.htm
10億円で会社を売却した場合の税金
例えば、創業者個人が保有する会社を10億円で売却した場合の税金は、以下のような計算方法となります。
売却価格10億円・会社設立時の出資金1000万円・会社売却の費用5000万円の場合
10億円-出資金1000万円-売却費用5000万円=9億4000万円(譲渡益)
9億4000万円×20.315%=1億9096万1000円
以上により1億9096万1000円が納税額となります。
法人の場合
法人が保有する他の会社の株式を売却する場合、その課税方法は、個人による売却とは全く異なってきます。
法人の保有する株式の売却の場合には、個人の保有する株式の売却における分離課税制度は適用されず、法人において営むすべての事業と合算する総合課税方式により算定されます。
個人の場合に用いた譲渡益の20.315%という税率も存在せず、通常どおり法人の事業全体の利益に対する法人税が課税されます。
株式の売却による利益も含めた法人の事業全体の利益に対して法人税が課税されますので、その税率は必然的に法人によって異なってくることになります。
会社売却による従業員の取り扱い
会社売却後の雇用契約
会社を売却しても、従業員の地位には一切変動はありません。
会社の従業員は、会社との間で雇用契約を締結しています。
会社の代表者・オーナーと従業員との間に雇用契約があるわけではなく、あくまで会社との間の雇用契約です。
他方、会社売却とは、会社の実質的な所有者であるオーナー(株主)が、第三者に株を売却するというものです。
会社売却により会社の代表者やオーナーは変更となりますが、従業員は会社との間で雇用契約をしているものであり、その雇用契約の内容には一切の影響はありません。
会社売却による従業員の3つのメリット
大企業グループ会社の従業員となる可能性
会社買収を行う側の会社は、会社売却をする側の会社よりも相当規模が大きいことが一般的です。
会社買収側の会社が大企業である場合、売却した会社側の従業員は、大企業のグループ会社の従業員になります。
従業員によっては、大企業のグループの一員となることに喜びを抱く人もいるでしょうし、社会的な評価・世間一般の評価も更に向上するものと考えられます。
もちろん、そういったことに関心の無い従業員の方もいらっしゃるかとは思いますが、かえって居心地が悪いということにまではなりづらいものと考えられます。
コンプライアンス体制・福利厚生の充実
上記とも関連しますが、買収する側の会社が大企業であり上場企業であるような場合、近年、社内のコンプライアンスが極めて重要視されています。
上場企業であれば、買収以前から既に整備されているわけですが、買収によって売却会社もグループ会社の一員となる以上、売却会社にも同様のコンプライアンス体制が行き渡ることとなります。
就労に関するコンプライアンス体制としては、パワハラ防止・セクハラ防止はもちろんのこと、マタニティハラスメントの防止、過剰な残業の禁止、内部通報制度の確立等が挙げられます。
また、福利厚生についてもグループ会社全体で同一の制度が適用されることも多いため、従業員の福利厚生が充実する可能性があります。
取引規模の拡大による更なる活躍
買主会社のグループ会社化により、売却会社の取引規模は拡大し、従業員はこれまでに行ってきた職務以上に広い範囲や分野において活躍する機会が与えられる可能性が高くなります。
それまでに関わってこなかった分野・人・会社等に触れることによって、就労意欲の更なる向上に繋がることが有り得る上、従業員のキャリアアップにも繋がるものと考えられます。
会社売却による従業員のリスク
買主側の意図
会社は、人(従業員)によって成り立っているものであり、買主側もそれをよく理解しています。
会社の利益を上げることのできる人材を確保するためには相応のコストと時間を要し、また、売却会社の熟練した従業員は既に技術と経験を積んでいる状態にあると言えます。
このような人材を買主側があえて手放すようなことは通常は考えられず、会社買収前と同程度以上の待遇を与え、継続して就労してもらえるように最善を尽くすものと考えられます。
したがって、会社を売却することによって従業員に生じるであろう不利益は、それ程考えられません。
買主の経営方針による就労環境の変化
上記のとおり、従業員に生じる不利益はそれ程考えられないものの、買主の経営方針によっては、従業員に重大な不利益が生じる場合があります。
別の解説記事において記載しましたが、一つの例として、Twitter社を買収したイーロン・マスクによる在宅ワークの実質的な禁止等が挙げられます。
テスラ社のイーロン・マスクはTwitter社を買収した後、Twitter社の従業員に対しリモートワーク(在宅ワーク)を実質的に許さない指示を出しました。
在宅ワークの禁止自体の是非は別として、買収直前までの従業員の日々の生活や就労環境を、経営者の交代によって大きく変動させてしまう恐れが現に存在するということの一例です。
このような事態を防ぐためには、買主候補との交渉をする中で、買主は会社買収後にどのような方向性を考えているのか、従業員の取り扱いについてどのように予定しているのか、数年先のみならず将来にわたりいかなる会社の未来像を描いているのかなどを確認していくことが重要です。
また、場合によっては、従業員の取り扱いについて書面で明記して買主と合意しておくという方法もありますし、売却前に雇用契約や就業規則を再整備しておくという方法もあります。
まとめ
会社を売却しても、雇用契約には何ら影響がないため、従業員の地位には一切変動はありません。
会社を売却することによって従業員に生じるメリットとしては、これまで述べたとおり、以下の要素が考えられます。
①大企業のグループ会社の従業員となる可能性
②コンプライアンス体制・福利厚生の充実
③取引規模の拡大による更なる活躍
また、買主の経営方針によっては、従業員に事実上の不利益が生じる可能性はありますが、これを未然に防ぐための手立てもあります。
買主の志向する会社の方向性をあらかじめよく確認すること、従業員の取り扱いについて書面により確認をすること、雇用契約や就業規則を整備しておくこと等です。
総じて考えれば、従業員に生じるメリットが大きいものと考えられ、会社売却を悲観的に捉え消極的となる必要は無いものと言えます。
会社売却の基本的な流れ
まずは、買主候補を探します。M&A仲介会社への依頼、ファイナンシャルアドバイザーへの依頼、マッチングサイトへの登録、金融機関の紹介などがあります。
売却しようとする会社の規模にもよりますが、原則としてファイナンシャルアドバイザーへの依頼をおすすめします。小規模の会社の売却はM&A仲介会社への依頼やマッチングサイトへの登録も検討してください。
M&A仲介会社に依頼する場合、まずはM&A仲介会社との間で仲介契約を締結します。
この契約書には、着手金・中間金・成功報酬金などの要否・金額、その費用の中に含まれるサービス内容、テール条項等が記載されています。
いずれも重要な内容ですので、あらかじめ弁護士に契約書の確認を依頼することをおすすめします。
M&A仲介会社等を通じて買主候補が見つかったら、売主代表者(株主)と買主代表者または事業部長等と面談をします。この段階での面談は買主候補との「顔合わせ」であり、条件交渉などは行われません。
買主候補との間で基本合意書を締結します。通常、この基本合意書には、売却価格や、この後に実施される買主の調査に対する売主の協力義務等が記載されています。ここで定められた売却価格をこれ以降に増額させることは非常に困難となりますので、慎重に検討する必要があります。
売却価格や基本合意書の内容について、あらかじめ弁護士に相談することをおすすめします。
買主側は、弁護士や公認会計士に依頼し、売主の会社の調査を実施します。売主の会社に法的な問題、経理上の問題が無いかを検証するものです。通常、売主代表者に対する面談調査(マネジメントインタビュー)も実施されます。デューディリジェンスの結果は、会社売却後のトラブルや訴訟の原因となることが多くありますので、適切に対応しなければなりません。
売主に対して実施される面談調査については、売主側の弁護士も同席すべきです。
会社売却において最も重要なフェーズです。最終的な売却価格、売却条件、売却後の売主の責任などを定めます。通常、買主側より最終契約書の案が作成されますが、各条項を綿密に検証する必要があります。
この手続きはもっぱら法的事項であり、弁護士でなければ検証できない部分が多々あるため、必ず弁護士に相談されることをおすすめします。間違っても、買主側に提案されるままに契約することのないようにしてください。
最終契約書の定めに基づいて、売却価格の支払い、株式譲渡の実行などが行われます。会社の資産に会社代表者の実質的な個人資産が含まれている場合には、これを買い取る作業なども実施します。
これで会社売却の取引は完了となります。
しかし、会社売却が完了した後も、売主の責任が問われる事例が度々発生しています。このようなリスクを可能な限り防ぐためには、これまで記載した各手続きの段階において弁護士に適切な関与を依頼することが望ましいものと言えます。
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